大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)10号 判決 1977年6月28日

寝屋川市大字太秦九九八番地

原告

上平孝雄

右訴訟代理人弁護士

野村清美

右訴訟復代理人弁護士

澤田恒

枚方市大垣内町二丁目九番九号

被告

枚方税務署長

藤岡誓

右指定代理人

岡準三

清家順一

片山敬祐

山口正

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が原告に対して昭和四七年七月八日付でした原告の昭和四五年分所得税についての更正処分は課税長期譲渡所得金額のうち一六、九九九、六五三円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、昭和四六年三月一五日被告に対して昭和四五年分の所得税について所得金額の合計額を二七、〇三〇、八八八円(うち課税長期譲渡所得金額一六、九九九、六五三円)とする確定申告をしたところ、被告は、昭和四七年七月八日原告に対して所得金額の合計額を一八五、三二四、八五六円(うち課税長期譲渡所得金額一七二、四〇七、八一五円)とする更正処分(以下本件処分という。)をした。そこで、原告は、同年八月二一日被告に対して異議申立てをしたが、被告は、同年一一月二一日原告に対してこれを棄却する決定をした。更に、原告は、同年一二月一八日国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、昭和四九年一二月一六月原告に対して過少申告加算税賦課決定の一部を取り消しその余の請求を棄却する旨の裁決をした。

2  しかし、原告の課税長期譲渡所得金額は一六、九九九、六五三円であるから、本件処分の同所得金額のうち右金額を超える部分は、違法である。

3  よつて、原告は被告に対し、本件処分のうち前項の部分の取消しを求める。

二、請求原因に対する答弁

請求原因1は認め、2は争う。

三、被告の主張

1  原告の昭和四五年分各種所得の金額は次のとおりであるから、右金額の範囲内でされた本件処分は適法である。

(1) 配当所得の金額 六〇三、〇〇〇円

(2) 不動産所得の金額 三、八六四、二三五円

(3) 給与所得の金額 五、四六四、〇〇〇円

(4) 雑所得の金額 二、九八五、八〇六円

(5) 課税長期譲渡所得金額 一七九、五七四、三二四円

2  課税長期譲渡所得金額の明細は、次のとおりである。

(1) 収入金額

イ 訴外新晃工業株式会社に譲渡した土地に係る収入金額 二八、〇三三、一〇〇円

ロ 訴外上平シカノ(以下訴外人という)との離婚に伴い同人に財産分与した土地及び建物に係る収入金額 一九二、〇四四、三六九円

ハ 収入金額合計(イ+ロ) 二二〇、〇七七、四六九円

なお、譲渡先別、物件別収入金額の明細は、別紙(一)「長期譲渡所得の収入金額の内訳明細」のとおりである。

(2) 取得費及び譲渡に要した費用

イ 訴外新晃工業株式会社に譲渡した土地の取得費等 一、三一一、一三四円

ロ 訴外人に財産分与した土地及び建物の取得費等 三八、一九二、〇一一円

ハ 取得費等合計 三九、五〇三、一四五円

なお、物件別取得費等の明細は、別紙(二)「取得費等の内訳明細」のとおりである。

(3) 課税長期譲渡所得金額

イ 収入金額合計 二二〇、〇七七、四六九円

ロ 取得費等合計 三九、五〇三、一四五円

ハ 長期譲渡所得の金額(イ-ロ) 一八〇、五七四、三二四円

ニ 長期譲渡所得の特別控除額 一、〇〇〇、〇〇〇円

ホ 課税長期譲渡所得金額(ハ-ニ) 一七九、五七四、三二四円

3  原告の訴外人に対する不動産の譲渡は、昭和四五年三月六日成立した原告と訴外人との調停離婚に伴う財産分与であるが、財産分与も所得税法上資産の譲渡にあたるから、課税長期譲渡所得金額は、前記のとおりとなる。

なお、原告は第一口頭弁論期日に右譲渡が財産分与であることを認めたから、後にこれを贈与である旨主張を変更することは許されない。

四、被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張1のうち、課税長期譲渡所得金額は否認し、その余の各所得金額は認める。

2  同2、3について

原告が昭和四五年に譲渡した不動産、譲渡先、譲渡年月日及び事由(ただし財産分与の点を除く)、譲渡価額、取得費等の内訳明細が別紙(一)(二)記載のとおりであることは認める。しかし、訴外人に譲渡した不動産(以下本件物件という。)については、次の理由から所得税法上資産の譲渡に当らない。

(1) 原告は、昭和四五年三月六日当時妻であつた訴外人に贈与として本件物件を譲渡したのであり、同人も、これについて所定の贈与税を納付する旨了承した。そして、原告は、被告税務署員の助言で被告に対し昭和四八年法律第八号による改正前の所得税法五九条二項の規定により譲渡があつたものとみなされないための書面を提出した。したがつて、譲渡所得が生じないことは明らかである。

(2) 仮に本件物件の譲渡が原告と訴外人との離婚に伴う財産分与であるとしても、財産分与としての財産の移転は、実質的には夫婦共有財産の分割であつて資産の譲渡に当らないと解すべきであるから、本件物件の譲渡は、資産の譲渡とはならない。

第三、証拠

一、原告

甲第一ないし第五号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立は認めると述べた。

二、被告

乙第一、第二号証を提出し、甲第三、第四号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、請求原因1の事実及び課税長期譲渡所得金額を除く被告の主張1の各所得金額は、当事者間に争いがない。

二、課税長期譲渡所得金額について判断する。

1  原告が昭和四五年に別表(一)のとおり(ただし財産分与の点を除く。)不動産を譲渡したこと及び右不動産の取得費等の内訳明細が別表(二)のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  まず、原告が昭和四五年三月六日訴外人に譲渡した本件物件についてその譲渡が財産分与であるかどうかを判断する(なお、原告は当初右譲渡が財産分与であることを認めたが、これは主要事実についての自白ではないから、後にこれを変更して贈与である旨主張することはもとより許される)。

成立に争いがない乙第一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると次の事実が認められ、この認定の妨げとなる証拠はない。

(1)  昭和四五年三月六日大阪家庭裁判所において原告と訴外人とが離婚する旨の家事調停が成立した。その調停条項は、原告が訴外人に対し「離婚に伴う財産分与として」本件物件を分与し、「慰藉料に代え」株式会社くろがね工作所の株式を譲渡すると定め、財産の譲渡につきその事由を明らかにしている。

(2)  原告は建材の販売、貨物の運送等の事業を営むものであるが、昭和一六年ころ訴外人と結婚し、その後は訴外人が家事を処理するとともに事業を手伝つた。戦後原告は右事業によつて多大の利益を挙げ、その利益で本件物件を含む不動産を次々に取得し、多額の財産を有するに至つた。ところが、昭和四四年訴外人から原告に不貞な行為があつたとして離婚の訴が大阪地方裁判所に提起され、調停が試みられた結果、原告がその財産の一部を訴外人に譲渡して離婚することとなり、前記調停が成立した。そして本件物件の価額は、原告の全資産の約四〇パーセントに当るものである。

以上認定の事実によると、訴外人は原告が本件物件を含む資産を取得するについて直接間接寄与しているものであつて、離婚に伴い財産分与として本件物件を譲り受けるべき十分の理由があり、かつ、離婚の調停条項上本件物件の譲渡が財産分与であると明示されているのであるから、他に特段の事情のない限り、本件物件は財産分与として原告から訴外人に譲渡されたものといわざるをえない。

ところで、成立に争いのない乙第二号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、調停成立後の昭和四五年三月一六日、当時の原告住所地所轄の旭税務署長に対し昭和四八年法律第八号による改正前の所得税法五九条二項所定の書面を提出し、右書面に原告が昭和四四年六月二〇日訴外人に本件物件を贈与したと記載して同法条一項の適用の除外を求めていること、訴外人は同年九月原告が税務署長に対して提出する右書面の記載事項が正確であると確認することを確約するという趣旨の念書を作成して原告に交付したことが認められるが、同年六月ないし同年九月に本件物件が贈与された事実のないことは、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によつて明らかであり、また右念書が訴外人において本件物件の贈与税を納付することを確約した念書であるとはその文言上解しがたいのであり、右各書面の提出、作成の事実は、本件物件の昭和四五年三月六日の譲渡が財産分与であると認める妨げとはならない。また、成立に争いのない甲第五号証及び原告本人尋問の結果によると、別紙(一)記載の7、8の物件について昭和四四年六月二〇日原告から訴外人に対し所有権移転登記がされていることが認められるが、原告本人尋問の結果によれば、右登記は、原告が訴外人から仮処分の執行をされたことから、取引上支障をきたすためやむをえずしたのであり、右時点で贈与したものではないことが認められるから、右登記は本件物件が調停離婚成立の日に分与されたとする認定を妨げるものではない。

原告はその本人尋問において、本件物件は調停離婚に当り訴外人に贈与したものであつて分与したものではない旨供述するが、訴外人が原告と三〇年近く結婚生活を続け原告の財産の形成に与り力のあつたことは前叙のとおりであるから、原告は離婚に際し財産を訴外人に分与しなければならないことを知つていたものと推認されるところ、前掲乙第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件物件以外に原告は訴外人に財産分与をしていないこと、原告は調停期日に自ら出頭しており、調停成立の際調停委員から前記調停条項で宜しいかと念を押されたのに対し格別異議を述べなかつたことが認められるのであり、原告の右供述は到底採用することができない。

そして、他に本件物件を原告が訴外人に贈与したことを窺わせる証拠はないから、原告は訴外人に対して調停離婚に伴う財産分与として本件を譲渡したとみるべきである。

3  次に、財産分与として不動産が譲渡された場合には、譲渡人に譲渡所得を生じ課税の対象となると解される(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決・民集二九巻五号六四一頁参照)。したがつて、原告が訴外人に本件物件を財産分与したことによつて原告に譲渡所得が生じたといわなければならない。

4  以上の次第で、原告には昭和四五年に被告主張のとおり一七九、五七四、三二四円の課税長期譲渡所得があることになり、したがつて本件処分には原告主張のごとき違法はない。

三、よつて原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 井関正裕 裁判官 春日通良)

別紙(一)

長期譲渡所得の収入金額の内訳明細

<省略>

<省略>

〔注〕実際の譲渡価額は、29,593,100円であるが、当該譲渡については所得税法64条2項の規定によつて、なかつたものとみなされる

金額1,560,000円があるので、長期譲渡所得の金額計算上の収入金額は、差引28,033,100円となる。

別紙(二)

取得費等の内訳明細

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例